金魚鉢

オタクって楽しい

ハチクロ感想文

わたしは、中学受験が終わったその日にご褒美として親からハチミツとクローバー(ハチクロ)を買ってもらった。表紙の絵が可愛くてずっと読んでみたかったのだ。受験が終わったこともあり、それはもう夢中になって読んだ。小学校で「好きな言葉を書こう」という授業でみんなが「ありがとう」とか「限界を超える!」とか書いている中でひとりだけハチクロの一節を書いた。たしか紫蘇の葉のくだりの言葉だった。大好きな漫画の言葉だと先生に告げた。先生は怒らなかった。お前は他の子とは違うなと言っただけだった。

 

ハチクロは大好きだったけれど、高校生になって読み返した時に、小学生の頃の私には何も理解できていないことがわかった。

 

また、大学生になって読み返した。高校生の頃には理解できていないことがまだあったことがわかった。大学生はハチクロに出てくる彼らと同じ年代であった。きらきらした彼らの大学生活が羨ましかった。あれは空想の、理想の大学生活だとわかっていたけれど羨ましかった。

 

つい先日、社会人になってまた読み返した。今まででいちばん胸が押しつぶされるような気持ちになった。彼らのような恋愛をしたことはないけれど、毎日のちょっとした苦しさや楽しさにリンクしていく。竹本くんの空っぽの音が、はぐちゃんの生きることの意味が、あゆの感情が、少しずつ私に繋がっていく。将来が見えないことが怖い、何をすればいいのかわからない、人の気持ちを踏みにじることはできないけれど、かといって全てを受け入れることはできない苦しみ。でも、それでも楽しいことは沢山あって、みんなでキリンを見たり、プードルケーキを食べたり。毎日は苦しいだけでも楽しいだけでもない。色々なことが起きて日常は作られていくのだ。

 

最近、仕事が辛くてでも楽しいことはあって。苦しい時にはもう全て投げ出してしまいたいと思ってるのに、楽しい時にはものすごく楽しくて幸せで。おかしいなって思っていた。でもそんなことはなかった。人生ってきっとそんなものなんだ。人生を悟れるほど長生きをしているわけでもないけれど、なんだか少しそんな気がした。